ニッチ、新規事業、PPM

セキちゃんと飲みに行ったら、鋭い質問をされた。
「三石さんのやっているビジネスって、ニッチ過ぎませんか?バイリンガルの先生だって、無限にいるわけじゃないでしょ」
はい、セキちゃんには『Mr.ごもっとも』の称号をあげよう!

確かにその通りである。しかし、同時に最近感じることは、ニッチも突き詰めると周辺のビジネスが見えてくる。

例えば、僕がインドネシア語(バハサ)の専門の通訳、翻訳のビジネスを始めたとしよう。むちゃくちゃニッチだ。その分、その業界で一番になるのは、化粧品業界で一番になるとかいうものと比べるとそれほど難しくない。大使館や大物インドネシア人の推薦なんかを取るのもそれ程難しくないだろう。テレビなどでも、インドネシアの政治家なんかが来たときには使ってくれるだろう。政府など公の機関も商社等の民間も、競争が少なくないからとりあえず使ってくれる可能性も結構あると思う。

そんなニッチの中でも、その業界で一番になったら何が起こるだろうか?
例えば、インドネシアのビジネスマンを紹介してほしいなんて話もその会社に最初に来るだろう。日本の企業のインドネシア進出の話やら、事業投資や不動産投資の話なんかも最初に入ってくる会社になってしまうだろう。はたまた、インドネシア料理のレストランを手伝ってほしいだの、日本の商品をインドネシアに輸入したいだの、観光のプロモーションの仕事なんかも舞い込んでくるかも知れない。

単なる頭の体操で例を出してみたが、ニッチで一番になると結構いいことがあることは分かってもらえたと思う。では、ひたすら小さなニッチを狙ってビジネスをしていけばいいのかと言うとそうでもない。その時大切になるのは、なんでそんなニッチなビジネスに取り組むかということだ。また、小さくてもそのマーケットで一番になったからには、その事業から継続的なキャッシュフローが見込めるかを見定めなければならない。十分なキャッシュフローが無ければ、新規事業に投資する資金も得ることができない。

ニッチを攻めるときの留意点をまとめると以下の通り(重要度の順)
・ 会社の理念として、そのビジネスに取り組む意味があるか?
・ チーム全体がそれによってHAPPYになれるだけの市場は最低限確保されているか?
・ その市場には継続性はあるか?
・ そのビジネスにおける自分たちの差別化の源泉であるコア・コンピタンスは何か?それと飯のタネが一致しているかどうか?
・ そのニッチを攻めきった後、つまりその業界で一番になった後にその業界の周辺には他のニッチがあるか?
・ ニッチを攻めることでメインストリームに出る足がかりになるか、メインストリームに出ても十分勝機があるか?


こうしてニッチを追求していくと、新規事業の可能性が沢山出てくるのでPPMのことを考えなければいけなくなる。
1960年代にボストンコンサルティングが開発した、Product Portfolio Management (PPM)という考え方では、ビジネスを収益性(マーケットシェア)と将来性に分けて、4つのマトリックスに分類する。「Cash Cow(金のなる木)」「Star Horse(花形)」「Old Dog(負け犬)」「Wild Cat(Problem;問題児)」に分ける。

簡単に言うと、ビジネスのステージによってキャッシュフローの質が違う。それを理解したうえで、最適投資を行いましょうということを教えてくれる。
くわしくは、ネット上で経営学講座を見つけたので、こちらを見て欲しい。

長くなったがここまでは、前振りに過ぎない。先日、キャタルの取締役であり、テレウェイヴ代表取締役である齋藤真織社長とミーティングをした際に、今の自分にとってもっとも大切なことを気づかされた。
まさに、これらニッチとPPMの話をしていた時だった。どんな新規事業に取り組もうとしていて、それらがいかに可能性に富んでいるかを説明していた。そこで、頂戴したのは厳しい一言だった。「多くの経営者は新しいことに目を向けがちでそれに多くの時間を使いたがる。しかし、一番大切なのは今現在のビジネスでキャッシュを生み出しているものであり、そこにこそ資源を投入すべきだ」というものだった。何も言えなくなってしまった。さらに「今自分たちのキャッシュフローを生み出しているビジネスを、しっかりとシステム化し、組織化していかないと本当のCash Cowには育たない」ともいわれた。自分がCash Cowだと思っていたものは、まだよちよち歩きのCowだと言うことを気づかせてくれた。

この5年間ニッチを歩んできてそれなりの結果で満足していたのかもしれない。今回の一連の出来事とそれに伴う考察は、自分たちがまだまだだと言うことをしっかりと認識させる非常にいい機会になった。今のビジネスをさらに高めるために、自分の時間を含めた資源をどこに配分すればいいかが明確になった。「今日の自分が一番小さい」という謙虚さと前向きさをもって、取り組んで行きたい。

そういえば、今日一緒の会社で働いている津田に「あなたの会社の人はみんな何かを始めるのは得意ですけど、やりきることが下手です」と言われた。