読書会

社内でのコミュニケーションをいかに円滑に進めるかは、経営者にとって大きな課題の一つである。経営者、特に中小企業の経営者は問題に直面したときに、その対応策について助言をえる相手が常にいるわけではないので、セミナーに出席したり、ビジネス本をひも解いたりして乗り切ろうとする。だが、私の経験から言うとこう言う時が一番社内からの反発を買いやすい。マネージメントに専念している社長よりは、顧客やら仕入先やらと直接仕事をしている現場の社員の方が危機感を感じている。それを、現場のことを良く分かっていない(少なくとも現場はそう思っている)社長が、上から「あの本にこう書いてあったからこうしよう」とか、「どこそこのコンサルタントがこういっているから、わが社もこの策を取り入れてみよう」などと言ったところで、反発を招くだけである。

では、現場に任せておけばいいのかというとそうではない。ドラッカーの有名な言葉を借るまでもなく、問題は発生した次元で考えても解決できないのである。つまり、経営者的な発想を持って第三者の意見を取り入れて新しい取り組みをしなければ、大抵の問題は解決できないことが多い。

現場は新しい取り組みに対して拒否反応を起こすし、経営者は新しい解決策を取り組みたい。このねじれの関係にある二者をいかに融合するかは経営者の仕事である。

私達はこのような時には読書会を利用している。自分達が問題だと思うことについて、その解決策やらヒントが出ていそうな本を選んで、関係者全員でその本を読む。もちろん、ベクトルの違うものや解決策を提示していない本を読んでもしょうがないので、事前にリーダーが何冊か読んでみて適当な本を選んでおく必要がある。この方法を取れば、問題を最もよく理解している現場レベルの担当者が、本からのアイディアを自分の意見として提案してくれる。経営者側のすることはその意見をしっかりと理解し、実行の支援をするだけでいい。なんとも楽そうな話だが、これが本当に効果がある。

また、本にでてくる言葉は社内の共通言語になるので、その言葉を言っただけで笑いが出て行動が改まったりする。例えば、キャタルでは以前マイケル・ガーバーの「はじめの一歩を踏み出そう」を課題図書にしたことがある。その後はミーティングなどで、「それじゃあ、サラ(主人公の起業家)と同じだよ」と言っただけで、何を回避すればいいか皆分かってくれる。

こうして、今まで課題図書として読んできた本は、「見える化」「カリスマ体育教師の常勝教育」「サービスを超える瞬間」「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう」「Emyth」「Emyth Mastery」「ハイパワーマーケティング」など様々で、それぞれから色々なことを学んできた。

今回は、エイドリアン・J. スライウォツキーの「ザ・プロフィット」を課題図書にして、読書会を開いた。この本は、難易度も高くボリュームもあったので、以下の課題について各自にレジュメを用意してもらった。

1)今の自分達のビジネスモデルに最も近いものはどれか
‐ どのような点が
‐ それになりきれていない足りないところはなにか

2)自分達が目指すべきビジネスモデルはどれか
‐ それは、現在のビジネスとどのように異なるか?
‐ そのビジネスモデルに移行するためにどのような何が必要か?
(投資、教育、採用、マーケティングetc)

3)自分が最も美しいと思うビジネスモデルはどれか?
‐ なぜ?
‐ それをどのように自分達のビジネスに取り入れられるか?

4)「The art of profitability」に出てくる本の中で読みたい本は?
‐ 自分はその中から何を学ぶか


今回の読書会からの学びはとても大きかった。まず、我々が持っているアセット、特にIntangible Assetの中で何が最も価値があり、それをどのようにビジネスモデルに繋げていくことができるかを考えられたところが大きい。
昔はキャタルでは、バイリンガルの教師が唯一価値のあるものだと考えていたが、今はレッスンのコンテンツや進め方の方が価値があると考えている。すると単にレッスンを販売する企業から、英語力向上のためのメソッドを販売する企業へ変化する意識が生まれる。そのほかにも、ROA総資産利益率)をどうやって向上するかとか、そのためにどのような仕組みを導入すればいいかなどが議論された。

このように課題図書を作って、読書会を開くことで自分が社内に導入したいと考えていることを、皆が自発的に理解してくれるだけでなく、自分でも気付いていなかったようなことを気付かせてくれる。

ちなみにこの「プロフィット」 は経営学のカリスマ、スライウォツキーの本の中では、小説調になっていて読みやすく、様々なビジネスモデルに言及している良書である。私は、自分のビジネスモデルの視点ばかりにこだわってしまうので、この本を読んだことでもっとビジネスを大きくするためにはどのような視点を持てばいいか、他のモデルを構築するためにはなにが必要かなど、学ぶことが多かった。

ザ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか

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