ドルとメリルと時々サブプライム

証券会社にいたからであろうか、時々サブプライムについて質問をされる。
秋口くらいまではまだ金融業界の人の関心ごとだったが、冬も大寒のこの時期になり金融とは関係のない人にまで関心を集める問題となり今年の国内景気にも大きく影響を与えている。

さて、この問題の説明などは専門家に任せるとして、元証券マンしかもメリルリンチというサブプライムのメインプレイヤーにいた人間の目から見たサブプライムについて考えたい。

まず、第一に感じたことは、メリルは過去10年の間に同様な問題に直面し、ことごとく克服しているということだ。
ロシアの通貨危機LTCM問題などリスクのとり方はそれぞれ違うが、メリルは過去に同様な信用リスクで大きな損失を出し、その度に大きく株価を下げ、激しいリストラに見舞われている。ただ、株価の推移を見れば分るが、とにかく回復が早い。これは、なぜか?簡単に言うと対応が早いのだ。このようなことが起こると、すぐにリストラをする。人に手をつけるだけではなく、様々な面でのリストラをする。信用リスクに対する管理も相当厳しくなるので、なぜまた繰り返すのかはっきり言って不思議ではあるが、それと同じくらい回復の早さにも驚く。これはアメリカ人の人間的な特徴かもしれないが、早々と問題の膿を取り除き、言い換えるならば損切りをして、次の日には「けろっ」としている。こんな文化が会社の中にある。もう会社を離れてしばらく経つので、今はどのような雰囲気かは分からないが、今回も少なくとも対応の早さだけは見て取れた。CEO以下責任者の入れ替えは早い段階に行われ、資本の強化も早かった。日本の不良債権問題があれだけ長くかかったのに比べると、スピード感の次元が違う。多分これ以上の損失は出ないのではないかと思うが、日本では問題が出てから何年経ってもいったいどれだけ損失があるかさえ明らかにならなかった。これは、文化の違いと言うより、経営における瞬発力の違いだと思う。

第二にアメリカの次なる金集めの手段は何かと言うことだ。
ヘッジファンドM&A、住宅ローンもっと言うと株主中心の資本主義は、見方を変えればアメリカにいかにカネを集めて「強いドル」を維持するかと戦略ともいえる。アメリカの低所得者層に対する貸付という、本来現地の地域銀行以外は関係のないようなリスクが、証券化という形を取ることで世界的に取りやすいリスクに変わって資金をアメリカに集めた。そして、何よりも面白いのがこの仕掛けを考えたのが、ゴールドマンサックスだということだ。ゴールドマンは、今回の騒ぎは、いち早く売り抜けたことで一人勝ち逃げ状態であるが、この金融業界の仕掛け屋が次にどのようなことに力を入れていくかは、今後の世界金融の動向に大きな影響を与えている。商品市場やBRICSと言った定量化しづらく、ルールが明確になっていないフィールドでどのような立ち回りを演じるかが見ものである。

最後に、金融に対する人々の意識の高まりだ。
一昔前なら、このような国際金融の問題に意識を持つのは一部のビジネスマンだけであった。ちょうど10年前にメリルに入社をしたときは、経済学部の学生ですらメリルリンチを製薬会社くらいに思っていたし、うちの母親に至っては最後までちゃんと発音できなかった。それが今では、ワイドショーなどでもメリルの名前をなんども聞くようになった。今回は、いいニュースではなかったが、同時に金融業界の影響力が10年前のそれとは比べ物にならないほど大きくなってきている表れであるとも考えられる。様々なイノベーションが業界で起こり、その動力が、世界を動かしていると言っても過言ではない。このような変化の中において、日本の金融市場が、世界的にどのような役割を果たしていくのかが、日本の将来を決めるともいえる。この危機感は、金融業界にいる人は強く思っていることであるが、それは果たして政策を決める政治家に届いているかは別の話だ。