風か地殻変動か −自民党が負けた理由

それでも日本の政治は自民党を中心に回っている。実はこの政権交代の選挙戦を見ながら感じたことだ。
今回の選挙についての国民の結論は、自民党への不信任であって、民主党が信任を受けたとは今の段階では言いがたい。麻生首相の敗戦の弁を聞いていても、敗北の理由は明らかにされない。また、負けた自民党議員のインタビューを聞いていると、「見えない何かの存在」「逆風」「風向きはまた変わる」など、目に見えないものを敗戦の原因に仕立て上げようとしている。つまり、当の自民党がなぜ負けたのかについて分かっていない。これこそが正に今回の自民党の敗戦の理由であり、郵政解散後の4年間で酩酊迷走をした自民党の過ちだったのだろう。

ここでは選挙速報を見ていても、なかなか明確に語られない自民党の敗戦理由について考えてみたい

任命責任
中川氏の記者会見ほど自民党の無責任さを露呈し、自民党には任せられないと思った事件はなかっただろう。あの事件は重大かつ象徴的な出来事ではあったが、考えてみるとあれよりもひどいことが3回続いているのである。安部氏、福田氏の『連続ぶん投げ事件』。会社で言うと社長が自分の会社を投げ出すのだから、状況としては投げやり以外のなにものでもない。安部氏も福田氏も「そんなならもういいよ」と半ばキレ気味にやめていったのだろう。
そのあとにでた首相は、やりたくてやりたくて仕方がない人だったから次は見つけられたものの、そうでなければだれもあのような会社の社長はやりたくないはずだ。そして極めつけは、昨日の麻生氏の敗戦の弁である。彼が政権を引き継いだ時点で政権交代は不可避ではあったが、責任がないわけでは断じてない。
この4年間、何をしても自民党内は無力化していた。あれだけ衆議院の中では絶対与党の自民党が、絶対与党であるがゆえにまとまらなくなり、それがあのようにリーダーシップの不在を生み出した。つまり、前回の選挙で小泉さんは勝ちすぎたのだ。小泉氏の功罪について考えるとき、勝ちすぎたことが自民党を無力化させ、結果的に公約どおり「自民党をぶっ潰した」こととなった。そして、歴史的圧勝の結果出現した素人集団を引っ張れるリーダーはもうそこにはいなかった。
リーダーを選ぶことにも責任があることを自民党は厳しく認識すべきであり、直近三代の総裁を選んだのは他でもない自民党員たちなのだ。また、その自民党を選んだのは我々であることも認識すべきだと思っている。
また今回、民主党に前回と同じような大勝を許してしまったということは、このことが問題視されていない一つの表れなのかもしれない。

世代交代
民主党候補は本当に若い。それに対して、今回の敗戦の弁を述べている自民党の議員たちはベテランが多い。敗戦で憔悴した年寄り達ばかりいる自民党。フレッシュで負ける怖さを知らないない民主党。選挙戦の結果は、公示される前から分かりきっていた。
前段でも述べたが、自民党も今後は若返りを実現しなければいけない。若返りの結果生まれる新自民党が、今後の4年間で実行力をつけることができているかもみものだ。


本当の女性の誕生
今回自民党から出馬した女性有名議員たちはことごとく小選挙区で敗戦した。小池氏、佐藤氏、片山氏前回選挙の女神が今回はすんなり勝たせてもらえなかった。
それに対して民主党の新人女性候補者たちは、ことごとく勝利の名乗りを上げた。しかも、小池氏や佐藤氏などに比べると無名中の無名の女性達だ。
この自民党女性候補者と民主党女性候補者を比べると、同じ女性でも少し毛並みが違う。自民党女性候補者たちは。男性社会の中で勝ちあがってきた女性達であるのに対し、民主党候補者は彼女達の世界の中でなんらかの結果をだしているようなより「個」に近い人物が選ばれた。民主党の候補者たちは女性として戦い、女性として勝った。久間元防衛大臣を破った福田氏や公明党の党首を破った青木愛氏などはそのいい例だろう。
小池氏、佐藤氏、片山氏などは男性社会のなかで結果を出してきた、いわば前時代の勝者だ。これに対して、民主党候補者たちは、今の時代を象徴する本当の女性たちの代表だ。女性有権者達が自分たちの代弁者として、同じ目線を持った女性を国会議員として選んだ。
男性社会から女性社会への移行。この時代の流れを自民党は完全に読めていなかった。


官僚政治からの脱却
官僚政治が自民党政権運営を支えてきたことは言うまでもない。しかし、それがケインズ経済後の社会で官僚政治からの脱却を求められている今日においては、逆に邪魔になった。官僚との関係が改革の足かせになっていることは分かっていても、「○○族」「□□族」と呼ばれる、族議員がいて前に進まない状況ががっちりできていた。理念でなく、世襲で集まった集団は、新しいものをクリエートするというより、既存の利権を優先することに存在理由を見出していた。
既得権に縛られた集団が、構造改革を行うことはできない。官僚主義に守られてきた自民党が、官僚主義に改革を入れることができないことを有権者は知っていたのである。


景気対策
最後に自民党が一番力を入れてきたと語っている景気対策について。私の感想からすると自民党が去年から行ってきた景気対策には○(マル)が見当たらなかった。
経済政策は、来るべき社会をどのようにデザインするかも考慮しなければならないが、自民党景気対策にはこのような視点が欠けていた。
見せ玉的要素が強かった給付金は、将来の税収を財源としているのに、投資としての効果はごくごく微量で、かつそれを配ることにもコストを掛けていることを考えると、国の取る政策としては信任しかねる。高速道路の低料金化にしても、その先に何があるのかはまったく無策であり、人気取りのための景気対策だといわれても仕方がないだろう。
つまり、今回の景気対策の中で行われた投資の中で、将来の税収増を生むものが一つもないのだ。国も経済合理性の中で運営されなければならないことを考えると、将来の生産性を上げないことに投資をしてもしょうがない。利益が出てない会社が、借金を元に配当を払っているような状態と言えば分かりやすい。
自民党には、次世代の社会を予測したデザイン力が完全に欠落していた。景気対策として導入された、中小企業に対するセーフティーネットも同様に、未来の税収を増やすと言う意味において効果が上がっていない。付け焼刃的な対応策しかできなかった自民党に対する不信任の声は大きい。
オバマ大統領のグリーンニューディールと何が違うのかをわが国の政治家は考えるべきだ。


今回の自民党の敗戦は、自民党が時代を読み、国をデザインする力が掛けていたことが大きな原因なのだ。

さて、それでも主役であったと言わしめてしまう自民党は、どうすれば復活を遂げることができるか。
プロフェッショナル政治家の育成
自民党は人にテーマをつけるのが実は上手な党だ。
桝添氏、小渕氏、小池氏など現時点の自民党内で実力を有して、若い可能性を持っている議員は何らかのテーマを持っている。官僚から直接レクチャーを受けられるのは、与党の特権でもあった。世襲への批判が強く、その声が選挙の結果として反映された今、この4年間自民党も若返りと世襲縮小の方向に動かざるを得ないだろう。すると、4年後は、民主党自民党も新しい力同士で戦わなければならないが、民主党の方が政権政党として実行力をアピール機会が次回は逆に与えられる。そんな状況になったとしても自民党は、次回の戦況も戦わなければならない。
民主党マニフェストの批判や邪魔ではなく、この期間にある分野に特化したプロ政治家の育成を進める必要があるだろう。プロ政治家がそれぞれの分野で与党となった民主党とその内閣をwatchする。単に文句を言うのではなく、代替案をどんどん実行していく。
ちなみに、今回の結果を受けた組閣で厚生労働大臣になることが確実な長妻氏はこれがとっても上手だった。

新リーダーの台頭
今後の党運営において、我々は自民党の誰に期待をすればいいのだろうか。世代交代とニューリーダーの輩出ができなければ、自民党は復活できない。その鍵を握るのが、小渕氏であったりすると面白いのだが。
小渕氏は初出馬以来、亡き父の地盤を引き継ぎ、安定感を守ったまま勝ち続けている。小渕元首相は、首相になって知名度をあげた政治家ではあるが、地元では中曽根、福田の影に隠れて目立つ政治家ではなかった。地盤を引き継いだとはいえ、ここまでの圧勝できるだけの地盤であったかと言うと、そうではない。
今の政治化の中では群を抜いている演説のうまさと、彼女にまつわるテーマの重大さが彼女を政治家として成長させ、それを選挙民が支持したのだ。
彼女が自民党の中で力をつける。それを小池氏や石原氏などが支えるような協力体制を築くことができれば、2010年7月の参議院選挙では十分に戦える。